臨床試験について

動注化学療法

化学療法は腫瘍に対する抗がん剤や細菌感染に対する抗生物質などによる薬物療法をさしますが、このような化学療法の中でも、特に高い濃度の薬剤を目的とする病巣に作用させることが必要な場合があります。代表的なものががん病巣に対し抗がん剤を投与する場合で、もしがん病巣が体のどこか一部に限局していて、この部位にのみ抗がん剤を投与することができれば、当然がんに対する効果が高まり、かつ全身的な副作用が少なくてすむことが期待できる訳です。抗がん剤の場合には静脈からの全身投与に比べ数倍から数十倍の局所濃度が得られ、これは骨髄移植などを併用して行われる超大量全身化学療法に比べても遥かに高い濃度であることが知られています。このような目的で、限局した病巣に、この病巣に血液を供給している動脈から直接薬剤を投与する治療法が動注化学療法です。

動注化学療法は全身のさまざまな臓器に対し行われますが、カテ−テルを留置できる血管がありリザーバーを用いて治療を行うことのできる臓器は限られているため、顔面、頚部、四肢、肝臓、骨盤内臓器などが主な治療対象となっています。しかし、動注化学療法の効果は原則として、この治療対象とされた臓器に限られますので、病巣が全身各所にある場合には、特殊な場合を除き動注化学療法は行われません。

なお、動注化学療法が広く行われているがんに対する化学療法の場合にも、その治療の目的が長生きや治癒を目的にするものなのか、症状を和らげるためのものなのかなどにより当然役割が変わってきますが、動注化学療法をどのような時にどのように利用するかについては、未だ必ずしも科学的な根拠に基づいた判断が下されている訳ではありません。このため、まだ研究的な側面をもった治療法であると言えます。

また、動注化学療法は高濃度の薬剤を目的とする部位に集中的に投与しようとする治療法ですから、薬剤を正しく注入するための技術が極めて重要です。特に抗がん剤の場合には目的以外の部位に薬剤が流入すれば強い副作用が出現することもあり注意を要します。このため、この治療は十分に経験のある医師により行われる必要がり、この点では特殊な治療法であると言えます。